ドストエフスキーの戦争論
『作家の日記』を読む

三浦小太郎 

四六判並製 272頁 定価(2100円+税)
ISBN978-4-907961-15-2 C0095
2019年11月30日発行

装幀:西田優子

ドストエフスキーはなぜ戦争を讃美したのか?!

露土戦争聖戦論、コンスタンチノープル領有宣言、ユダヤ・カトリック陰謀論、平和主義批判……。極めつけの「反動的政治論」とみなされ、ほとんど顧みられることがなかった最晩年の労作『作家の日記』を読み込み、一筋繩でいかない文豪の知られざる実像に迫る。

「晩年のドストエフスキーが個人雑誌として発行した『作家の日記』は、19世紀末ロシアの政治情勢、露土戦争などについて、この文豪が直截的に論じたものです。そこには、偏見も極論も、時には差別的な言葉すら含まれていますが、同時に、現代社会のさまざまな問題、グローバリズムとナショナリズムの激突、知識人と民衆の隔離、西欧文明の没落などを予見していたような先見性にも満ち溢れています。拙著はこの『作家の日記』について私なりに論じたもので、正直、対象が偉大すぎて力不足ばかりを感じていた日々でしたが、萬書房編集部の粘り強いご協力のもと発行にこぎつけることができました」(刊行にあたっての著者の言葉より)


■書評:メルマガ「宮崎正弘の国際情勢解題」令和元年(2019)11月24日(日曜日)第9号(通巻6284号)「書評欄」(評者:宮崎正弘氏)


●目次

第1章 ドストエフスキー対トルストイ
 露土戦争のはじまり
 ドストエフスキー対トルストイ
 トルストイの「原理主義的平和」が導く全体主義体制
 トルストイの民衆蔑視

第2章 民衆への同情が『悪霊』を導く
 ネクラーソフとドストエフスキー
 民衆への「愛」とは何か
 悪霊にとりつかれる善意の知識人

第3章 ドストエフスキーとロシア民衆
 知識人と民衆
 百姓マレイ
 百歳の老婆
 キリストのヨールカに召された少年

第4章 ドストエフスキーの見たロシアの近代
 上からの近代化が招いたロシアの混沌
 パパ、たばこをちょうだい
   ――自由の名のもとでの家庭と信仰の崩壊
 自殺へと向かう近代のニヒリズム
 霊魂の不死という概念と民衆の生
 神のもとに旅立った少女の死

第5章 近代を乗り越えてゆくロシア
 「柔和な女」と知識人の問題
 「おかしな男の夢」から「ヴラース」の巡礼へ

第6章 ドストエフスキーの戦争論
 巡礼としての戦争――近代批判としての戦争
 偽善的な平和と正義の戦争
 ドストエフスキーの「八紘一宇」
 リアル・ポリティクスを越えてゆく民衆の夢

第7章 コンスタンチノープル領有論と反ユダヤ主義
 コンスタンチノープル領有論(1)
   ――ロシアの歴史は三段階で発展してきた
 コンスタンチノープル領有論(2)
   ――権力から限りなく遠い正教、共産主義とも一体化するカトリック
 ドストエフスキーと反ユダヤ主義
 あるユダヤ人女性の手紙――民族の垣根を越えた一時のユートピア

第8章 スラブ主義の思想家――ホミャーコフとダニレフスキー
 ホミャーコフ――スラブ主義の純粋結晶
 聖なるロシアを求めるがゆえの祖国への激烈な批判
 ダニレフスキーと汎スラブ主義
 ドストエフスキーとスラブ主義

第9章 ドン・キホーテとジョルジュ・サンド
 ドン・キホーテ――政治における道義性
 ジョルジュ・サンド――気高い羊飼いの娘ジャンヌ

第10章 プーシキン記念講演と世界の調和
 露土戦争の「勝利」とスラブ主義の敗北
 プーシキンの描く「放浪者」としての知識人
 オネーギンとタチヤーナ――近代と民衆との対峙
 世界文学としてのプーシキンと、西欧とロシアの文明的統一

 ロシアが終わるとき――あとがきにかえて



●著者紹介
三浦小太郎(みうら こたろう)
1960(昭和35)年東京生まれ。現在、アジア自由民主連帯協議会事務局長。北朝鮮やアジア諸民族の問題に取り組むとともに、「正論」「Hanada」「月刊日本」などに執筆。
主な著書に『嘘の人権 偽の平和』(高木書房、2010年)、『渡辺京二』(言視舎、2016年)、『なぜ秀吉はバテレンを追放したのか』(ハート出版、2019年)など。

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